2023年12月時点でのRapid Trigger ゲーミングキーボードのティアーリストを公開します。市場に出回っているものはほぼ揃っていますが、一部無いものもあります。
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評価基準
評価基準については、アクチュエーションポイント調整とRapid Triggerの精度、動作の安定性に重きを置いています。
実は、各社が公表している数値、たとえばRapid Triggerの最小値(0.1mmなど)は、実際にはその限りではありません。どのキーボードにも、キーの一番底からコンマ数ミリだけRapid Triggerの判定が行われないデッドゾーンと呼ばれる距離が存在します。
例えば、デッドゾーンが0.5mmあると、Rapid Triggerを0.1mmに設定したとしても、キーを底打ちした状態から0.6mm以上は離さないと入力がオフにならない、といったイメージです。
色々なRapid Triggerキーボードを試していて分かったのは、どの機種もRapid Triggerの反応性自体にはそこまで差は無く、デッドゾーンの長さに大きな違いがあるということです。
デッドゾーンが短ければ短いほど、キーを離してから入力がオフになるまでの時間が短くなるので、VALORANTのストッピングには効果的と言えます。
ファームウェア
ここに掲載されている全ての製品を検証するにあたって、ファームウェアは現時点(2023/12/22時点)で最新のものを適用しました。
Rapid Triggerキーボード ティアーリスト
各ティアーの製品について解説します。
God tier
Razer Huntsman V3 Pro
ゲームでの性能を最も重視する人はこれを選ぶことをお勧めします。
Huntsman V3 Proの最大の特長は、流行りの磁気スイッチではなく、光学スイッチでアクチュエーションポイントとRapid Trigger 最小値0.1mmを実現しているという点です。磁気式キーボードではたびたび起こる動作のトラブルが一切起こらず、動作の安定性が非常に高いです。
Rapid Triggerの精度については、後ほど紹介するZENAIM KEYBOARDとRazer Huntsman V3 Proのツートップだと感じます。Wootingよりも優れています。キーを押す速度や深さにかかわらず、オンオフされるタイミングに一貫性があります。特にキーを底打ちした状態からのRapid Triggerの感度がとても高く、わずかに浮かした時点で必ずオフになります。
キー配列は日本語配列(JIS)と英語配列(ANSI)、レイアウトはフルサイズとテンキーレス、60%から選択できます。価格設定も分かりやすく、キー数が少ないほど安いです。
打鍵感と打鍵音については悪い意味でゲーミングキーボードらしさがあり、タイピングの心地良さを求める人には向きません。
アクチュエーションポイントやRapid Triggerなどを含めたキーの反応性や動作の安定性を重視するならこれを選んでおけば間違いありません。
ZENAIM KEYBOARD
たとえそれが僅かな差であっても、Rapid Triggerの精度の高さや動作の安定性に最も優れたものが欲しいならこれを選ぶと間違いありません。
アクチュエーションポイント調整やRapid Triggerのような機能は、キーの押し込み具合を検知しないと成り立ちません。ZENAIM KEYBOARDはそれらの精度の高さ、動作の安定性を第一に考えて設計されているように思います。
ZENAIM KEYBOARD以外の磁気キーボードはそれなりの頻度で動作が不安定になりました。全然気にならないような小さなトラブルがほとんどですが、キーを押してないのに反応したり、逆に押したのに反応しなかったり、Rapid Triggerが効かなかったりするといった大きなトラブルも稀にありました。唯一、ZENAIM KEYBOARDは一度も動作が不安定になったことがなく、動作の安定性の面で信頼できます。
Rapid Triggerキーボードでは現状唯一のロープロファイルキーボードです。しかも一般的なロープロファイルキーボードよりも圧倒的にストロークが短いです。Rapid Triggerキーボードはキーを0.1mmでも押したり離したりすると反応してしまう関係上、そもそも押し込める量を減らしてしまえば、操作ミスも起こりづらくなると思います。
現状最も高価で、おそらく今後出るRapid Triggerキーボードもこの価格を超えてくることは無いんじゃないかと思います。ZENAIM KEYBOARDとその他のキーボードには明らかな性能差はあるものの、VALORANTをプレイ中にストッピングの速度の違いがはっきりと体感できるようなものではありません。費用対効果はどうしても低くなるので、性能を突き詰めたい人以外には向きません。
Wooting 60 HE
キーボードとしての機能性やカスタマイズ性を重視する人はこれをお勧めします。
Rapid Triggerの生みの親であり、今もなお性能は最上位クラスに位置するキーボードです。アクチュエーションポイントやRapid Triggerの精度が高いです。特に、キーを底打ちした状態からの反応性に優れており、少し浮かせるとすぐにオフになります。
カスタマイズ性の高さはWootingにしかない強みと言えます。未だにケースごと交換できるものは少ないですし、多くの種類の中から選べるものは限られます。「GH60」と検索するとWooting 60 HEに対応しているケースが大量に見つかります。キースイッチにルブするもよし、スプリングを変えてキーの重さを調整するもよし。純正ケースのネジを5本回した先には、カスタマイズの沼が待っています。
主にゲーム用途で高く評価されていますが、キーボードとしての機能性にも優れています。60%の英語配列に慣れる覚悟、使いこなそうという気概さえあれば、普段使いでもとても便利に使えます。
Wooting 60 HEの購入がきっかけで色々な体験ができて楽しいですが、結果的にかなりのお金と時間が掛かります。Wootingをすでに持っている人の中には、カスタム費用を考えたらZENAIMなんて余裕で買えてしまうって人はたくさんいると思います。
Rapid Triggerキーボードの選択肢が増えた今、Wootingはあくまでカスタマイズ要素に惹かれる人向けで、ゲーム用途を重視しているのであれば他の選択肢の方が幸せになれる気がします。
VXE (VGN) ATK68
コストパフォーマンスに優れた機種を探している人にお勧めです。1万円台でトップクラスの性能と、カスタムしたかのような心地よい打鍵感と打鍵音を実現しています。
VGN(VXE)は国内ではあまり知られていませんが、中国では非常に人気のあるメーカーです。Dragonfly F1シリーズ(通称:トンボマウス)は国内でもそれなりに名が知られているかと思います。
アクチュエーションポイントとRapid Triggerの最小値は0.1mmで、きびきびと反応します。キーを底打ちした状態からオフになるまでの反応性はWooting 60 HEに並ぶかそれ以上で、とても精度が高いように感じます。Wootingで使えるMod TapやDKSのような機能も用意されています。
キースイッチは軸が揺れないよう改善されたGateron 2.0で、Wooting 60 HEやArbiter Studio Polar 65で気になったキーの揺れが改善されています。
ファクトリールブされたスイッチは、薄めに塗られていることが多いのですが、このスイッチは厚塗りされています。キータッチがとても柔らかく、コトコトと低い音が鳴ります。カスタマイズしなくても打鍵感や打鍵音が良い。Polar 65にルブするとおそらくこんな感じになるんだろうな、といった感じ。
本来こういった価格の安い商品を検討するときは、価格と引き換えに何かを妥協しなければいけないことがほとんどですが、ATK68には全てが揃っています。今後もこれを超えるコストパフォーマンスのRapid Triggerキーボードはなかなか出てこないんじゃないかと予想しています。
S tier
ELECOM VK600A
REALFORCE GX1に次ぐ国産のRapid Triggerキーボード。磁気式に絞ると初です。
Rapid Triggerの反応性は、このあとGod tierで紹介するWooting 60 HEやVXE ATK68に並びます。
しかし、ソフトウェアの仕様上、アクチュエーションポイントを長めに設定する場合は他の機種と比べて操作性が劣るので、避けた方が無難と言えます。
ほとんどのRapid Triggerキーボードには、3つの設定項目が用意されています。
① アクチュエーションポイント キーをこれだけ押すと反応するよ、という距離です。 ② Rapid Trigger 上記のアクチュエーションポイントを過ぎたあと、これだけ離したり再び押したりしたら反応するよ、という距離です。
たとえば アクチュエーションポイント 1.0mm、Rapid Trigger 0.1mmの場合:
- キーの押し始めはアクチュエーションポイントの数値が適用されるので、1.0mm押し込んだ時点で入力がオンになる。
- 1.0mm以降はRapid Triggerの数値が適用されるので、0.1mm離したり押したりするだけで入力のオンオフが繰り返されます。
さらに、大体の機種では、Rapid Triggerのアップストローク(キーを離して入力がオフになるまでの距離)とダウンストローク(キーを押して入力がオンになるまでの距離)の数値を個別で設定できます。
たとえば アクチュエーションポイント 1.0mm、Rapid Trigger アップストローク0.1mm ダウンストローク0.2mmの場合:
- キーの押し始めはアクチュエーションポイントの数値が適用されるので、1.0mm押し込んだ時点で入力がオンになる。
- 1.0mm以降はアップストロークとダウンストロークの数値が適用され、0.1mm(アップストロークの数値)離すと入力がオフになり、再び0.2mm(ダウンストロークの数値)押すと入力がオンになる。
ELECOM VK600Aにはキーオン感度・キーオフ感度という2つの設定項目しか用意されていません。この2つを上記の説明の用語に置き換えると、
- キーオン感度:アクチュエーションポイント・ダウンストローク(VK600Aでは、この2つが強制的に同じ数値になってしまう)
- キーオフ感度:アップストローク
たとえば キーオン感度 1.0mm、キーオフ感度 0.1mmの場合:
- キーの押し始めはキーオン感度の数値が適用されるので、1.0mm押し込んだ時点で入力がオンになる。
- 1.0mm以降はキーオン感度とキーオフ感度の数値が適用され、0.1mm離すと入力がオフになり、再び1.0mm押すと入力がオンになる。
この設定では、0.1mmでオフになるのに対し、再びオンにするまでに1.0mm押し込まないといけないので、キーをコンマ数ミリ単位で細かく上下させても連打判定になりません。
また、VALORANTでジグルピークなどの細かなキャラクターコントロールをするとき、毎回キーを深く押すように意識しないと入力が途切れることがあります。
アクチュエーションポイントを0.1mm付近にすると解決しますが、キー感度が非常に高くなるので誤入力が増えます。そもそも他の機種ではアクチュエーションポイントを深めに設定しながらRapid Triggerを0.1mmに設定することが可能で、実質的にVK600Aのみがこういった仕様です。
既にアクチュエーションポイントを0.1mmや0.1mm付近に設定している人でない限り、ELECOM VK600Aは非常に勧めづらいです。
簡単にまとめると、アクチュエーションを短くしないと、他のRapid Trigger対応キーボードと同じ挙動にならないということです。
A tier
DrunkDeer A75 / DrunkDeer G65
S tierやGod tierと比べるとデッドゾーンがわずかに広く、キーを底打ちした状態からのRapid Triggerの反応性がわずかに劣ります。
Corsair K70 MAX
ポーリングレート8000Hz対応のRapid Triggerキーボードです。デッドゾーンがELECOM VK600AやS tier以上のキーボードよりも少し広いです。
B tier
SteelSeries Apex Pro series
TKL 2023 USモデルで最新アップデートを適用後、Rapid Triggerを最短の0.1に設定すると、キーを1回押すと10数回連続で高速入力される、キーの反応が途切れるといった致命的なトラブルが多発します。0.2に設定すると発生しづらくなるものの、それでもまだ不安定です。
REALFORCE GX1 (30g) / REALFORCE GX1 (45g)
キーを底打ちした状態からのRapid Triggerの反応がA tierと比べてわずかに劣ります。キーを押す速度によってオンオフされる距離に若干のぶれが生じます。
YukiAim Polar 65 Katana Edition / Arbiter Studio Polar 65
キーを底打ちした状態から約0.4mmほどデッドゾーンがあり、キーを離すストッピングの速度が体感できるほど劣ります。このデッドゾーンを除いたRapid Triggerの精度は優れています。
C tier
Akko MOD007PC 7th Anniversary
打鍵感や打鍵音はそれなりに良いですが、肝心のRapid Triggerの反応が悪く、キーの小刻みな動きを認識しないときがあります。Rapid Triggerが目当てなら他にもっと良い選択肢があります。
さいごに
今回はRapid Triggerキーボードの最新ティアーリストを紹介しました。God tierに選んだ4機種すべてがRapid Triggerの精度や動作の安定性がトップクラスであることは前提として、4機種それぞれの特長をおさらいしておきます。
- 最も動作が安定していると感じるのは Razer Huntsman V3 Pro
- 最もRapid Triggerの精度が高いと感じるのは ZENAIM KEYBOARD
- キーボードとしての機能性やカスタマイズ性に優れているのは Wooting 60 HE
- カスタマイズ性以外の全てを備えていて低価格なのが VXE ATK68
S tierに選んだELECOM VK600Aはアクチュエーションポイントを0.1や0.2mmに設定する人ならGod Tierのキーボードと同様で、高い精度を誇るキーボードとして選択肢に挙がります。
ポーリングレート8000Hz対応のCorsair K70 MAXも魅力的ですが、ポーリングレートが高いからといって体感できるような差が出るわけではなく、結局はRapid Triggerの反応が良くて、物理的なキーの移動距離が短くなる方が違いが分かりやすいと感じました。
God tierとS tierのキーボードの差はわずかであることは強調しておきたいです。キーを小刻みに押したりして比較するとようやく違いがわかるほどで、実際にVALORANTをプレイしていてストッピング速度に差を感じることはありません。A tierに関してもインゲームでの差はわずかで、体感できる人とできない人がいると思います。
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